
会場の様子
5月26日開催の平成23年度FJC協会総会にて、厚生労働省老健局振興課福祉用具・住宅改修指導官の山下陽子氏、当協会広報委員であり国際医療福祉大学大学院講師の東畠弘子氏、当協会理事であり株式会社バリオン介護環境研究所所長の金沢善智氏にご講演いただきました。
記念講演会
「介護保険制度改革など高齢者福祉政策の方向性について」
- 厚生労働省老健局振興課 福祉用具・住宅改修指導官
山下 陽子 氏
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介護保険制度施行後10年の現況、今後の見通し
介護保険制度が施行され、今年で11年目となります。厚生労働省が実施したアンケート調査(「介護保険制度に関する国民の皆さまからのご意見募集」)によると、約60%の方は介護保険制度を「評価している」としてくださっています。
この10年間の推移を簡単に振り返ってみると、介護保険の被保険者で65歳以上の方の人口は約730万人(34%)制度開始初年度に比べ増加しています。要介護(要支援)認定者数は約269万人(123%)、サービス受給者数は約254万人(170%)の増加です。
介護保険の総費用も年々増加し、介護保険制度開始初年度は3.6兆円だったのが、2010年度には7.9兆円にも上っており、それに伴い、65歳以上の方が支払う毎月の保険料(全国平均)は、第1期の2,911円に比べ、現在の第4期では4,160円にまで増加しています。
また、介護従事者数も、直近の統計では初年度の2倍以上になっています。にもかかわらず、介護職員の平均賃金は他の産業と比較して一般的に低い傾向にあることから、2009年度から「介護職員処遇改善交付金」を設けるなどの対策をとっています。これにより、2010年度に交付金を申請した事業所における介護職員の平均給与額は、前年に比べ約15,000円増加しました。
介護拠点等については、現在の第4期の3年間で16万人分を緊急整備するという目標が掲げられ、各地域における小規模特別養護老人ホームやグループホームなどの整備への積極的な取り組み事業が推進されているところです。
次に、今後の見通しですが、これから全人口における75歳以上高齢者の割合はますます増加していき、2025年には18.2%、2055年には26.5%になると予測されています。このままでは、介護保険費用は2025年には約20兆円に達します。急速な高齢化は、特に首都圏をはじめとする都市部において深刻化すると懸念されており、認知症高齢者や世帯主が65歳以上の独居・夫婦のみの世帯の増加が問題となるのは必至です。
必要となる介護職員数は倍増すると推計される一方、今後2025年に向け、生産年齢(15〜64歳)人口は約15%減少し、労働力人口も約5〜13%減少すると予測されています。
前述のアンケート調査では、将来、自分が要介護となった場合、「家族に依存せずに自宅で介護を受けたい」が46%という高い結果となっています。また、自分の両親が要介護となった場合も「自宅で介護を受けさせたい」という回答が49%で、やはり皆、住み慣れた自宅で暮らしたいのだということがわかります。
そこで、これからの高齢者介護において目指すのは、「地域包括ケアシステム」の構築です。地域包括ケアシステムとは、日常生活の場(30分以内に駆けつけられる、中学校区を基本とした圏域)で、在宅を中心に、さまざまな生活支援サービスを適切に提供できるような地域体制をいいます。この体制においては、(1)医療との連携強化、(2)介護サービスの充実強化、(3)予防の促進、(4)見守り、配食、買い物などの生活支援サービスの確保、権利擁護など、(5)安心で安全な住まいの整備といった取り組みが、包括的に切れ目なく継続して行われることが必須で、図の24時間対応の定期巡回・随時対応サービスも、その取り組みの一部です。
介護保険法改正に向けた動き
介護保険法改正での主なところを要点のみご紹介いたします(講演当時、国会審議中であったため、案をお話ししましたが、講演後加筆修正し、成案を掲載させていただきます)。
まず、現行では平成24年3月末までに廃止される介護療養病床ですが、現存するものに関しては、今後6年間は転換期限が延長されました。
また、介護職員のたんの吸引等の医療行為の実施については、介護福祉士および一定の研修を受けた介護職員に限るという条件付きではありますが、容認の方向で進んでいます。介護職員の労働環境では、労働基準法に違反して罰金刑を受けている事業者等は指定拒否等を行うといった、少し厳しい方向性が示されています。
その他、高齢者の住まいの整備等については、有料老人ホーム等の契約時に前払い金返還を明記した契約の締結を義務づける利用者保護規定を追加することや、社会医療法人による特別養護老人ホームの開設を可能とするなどの規制を緩和する動きもあります。さらに、高齢者が住み慣れた地域で安心して暮らせるよう、新たな「サービス付き高齢者住宅」というものも検討中です。そして、これから最も重要となるのが認知症対策です。市町村は、高齢者のみ世帯、独居世帯等の増加に対する市民後見人を育成し、その活用を図ることで高齢者の権利擁護を推進していく必要があります。その他の改正内容につきましては、平成23年6月22に公布されました「介護サービスの基盤強化のための介護保険法等の一部を改正する法律」をご覧ください。
高齢者の住まい整備という点では、介護保険法改正の話からは逸れますが、現在、東日本大震災による被災地の仮設住宅において、高齢者等を支援するためのサポートセンターの併設が進んでいます。サポートセンターでは、近隣の居宅サービス事業者・医療機関と連携しつつ、総合相談(心のケアも含む)、情報支援、日中活動(閉じこもりによる運動機能低下を予防)、居宅サービス、配食などの生活支援サービス、地域交流サロンとしてのスペース活用などを包括的に提供します。総合相談の窓口となるのは、LSA(ライフサポート・アドバイザー)という職種で、これは、特別な資格を必要とするものではなく、一般の方でも、もちろん皆様のような福祉住環境コーディネーター(以下、FJC)の方も大歓迎です。特にFJCの方には、不便な仮設住宅の環境整備や、今後、新しく家を建てる方への有効なアドバイスなどを期待しています。
第6回「福祉用具における保険給付の在り方に関する検討会」について
最後に、先日開かれました「福祉用具における保険給付の在り方に関する検討会」での議論の要点を少しお話いたします。
まず1つめは、 “外れ値”という一部に存在する高額な福祉用具貸与価格の問題。利用者が自分の使用する福祉用具の価格情報を得ることができる「価格通知」のことなどが議論されました。
2つめは、比較的安価な福祉用具の取り扱いについて。杖、スロープなど小売価格が安価なものに関しては、貸与から販売にしてもいいのではないかという意見がある一方、福祉用具の貸与価格には保守点検といったアフターサービスの要素も含まれるため、一概に安いから販売へともいかない面もあり、今後の方向性を決めるための調査をしてから判断されることになりました。
3つめは、福祉用具の介護保険給付には、専門職による関与と適切なアセスメント、ケアマネジメントの推進が必要であるという議論です。そのためには多職種協働による利用者へのサービス提供が必須であるという認識が再確認されました。
検討会での議論内容については、厚生労働省のホームページから検索いただくと、閲覧できるようになっておりますので、興味のある方はぜひご覧いただきたいと思います。
「利用者から見た福祉用具の有用性と、安全を考える」
- 国際医療福祉大学大学院講師/医療福祉経営学博士
東畠 弘子 氏
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[東畠弘子(ひがしはた・ひろこ)氏プロフィール]
●福祉用具と介護経営分野の研究とともに福祉ジャーナリストとして執筆・講演活動などを行う。福祉用具における事故・ヒヤリハットの第一人者。著書は「活かそう、福祉用具のひやりはっと」(中央法規出版)ほか多数。全国福祉用具専門相談員協会理事、福祉住環境コーディネーター協会広報委員、厚生労働省「福祉用具における保険給付の在り方に関する検討会」委員。
利用者への調査からみる福祉用具の有用性・安全性
2008年に要介護者698人に対して、私が個人的に実施した福祉用具に関するアンケート調査では、福祉用具に対する満足度として、「満足している」が92.4%を占め、非常に高い結果を示しました。その理由(複数回答)としては、「生活が便利になった」が49.8%と最も多く、次いで「立ち上がり・歩行など動作が楽になった」が47.6%、「介護保険給付の範囲内で使える」が47.5%でした。
「満足していない」と回答した2.3%の理由は、「思ったほど動作が1人でできるようにならない」が0.5%、「介護の負担が思ったほど減らない」が同じく0.5%でした。しかし、この方たちに、今後も現在使用中の福祉用具を使い続けたいかと問うたところ、「使い続けたい」は56.9%でした。
本来、介護保険制度が福祉用具に求めるところは「利用者の自立」であるわけですが、調査結果では、福祉用具を使用して「立ち上がり・歩行など動作が1人でできるようになった」は27.8%にとどまり、福祉用具が必ずしも自立を促すものではないことを示しています。しかし、「生活が便利になった、これがあるから楽に生活できる」という側面では半数近くの方がよい感想をもっており、これは私の個人的な意見ですが、福祉用具というものは、「自立」・「介護負担の軽減」という役割もさることながら、そこまで目的を高く設定しなくとも、もっと広い意味で「生活が楽になった」という実感が重要なのではないかと思っています。よって、まだまだデータとしては不十分ではありますが、少なくとも「福祉用具は生活に大事なものである」ということは言えるのではないでしょうか。
続いて「福祉用具を利用して困ったこと」という質問に対する回答が表1です。「困ったことはなかった」方が52.1%、「困った」方が合計で38.8%となっています。困った方のうち、2.1%と全体からすればわずかですが「使っていて、事故になりそうで困った」という方がいて、これは見逃してはならない大きな問題です。
表「福祉用具を利用していて困ったこと」
| 使い方・操作がわからなくて困った | 27人 | 3.9% |
| 使い方・操作を忘れて困った | 68人 | 9.7% |
| 体に合わなくて困った | 45人 | 6.4% |
| 使いにくくて困った | 37人 | 5.3% |
| 故障して困った | 49人 | 7.0% |
| 使っていて、事故になりそうで困った | 15人 | 2.1% |
| 使っていて、壊れて困った | 18人 | 2.6% |
| 説明書がわからなくて困った | 12人 | 1.7% |
| その他 | 29人 | 4.2% |
| 困ったことはなかった | 364人 | 52.1% |
| 無回答 | 115人 | 16.5% |
| 回答総数 | 698人 | 100.0% |
というのも、上記で「困った」と回答した方が「誰に連絡したか」という質問で、福祉用具貸与事業者にもケアマネジャーにも連絡をしていない受け身の方々がおり、さらに、「その福祉用具をどうしたか」に対する回答として、「そのまま使い続けた」方が30.1%いるからです。もし表の「事故になりそうで困った」方が、そのまま使い続けていたとしたら、その後、本当に事故が起こる可能性が極めて大きくなることが予測されます。福祉用具の重大事故は、2007年に消費生活用製品安全法改正により重大事故の報告が義務づけられてからも、いっこうに減っていません。そのような事故の背景に、この「事故になりそうで困ったが、そのまま使い続けている」という理由があるとしたら、非常に怖いと思うわけです。私が貸与事業者によるアセスメントが重要であると考えている理由はここにあります。
介護現場の事故では、事故の当事者である高齢者自身、何が起こったのかわからず状況説明が明確にできないのが実情です。一方で「高齢者施設の事故の8割は、職員の見ていないところで起きている」という調査結果(須貝祐一ら「高齢者の転倒・骨折とリスクマネジメント」2006、老年精神医学雑誌)もあり、そうなると、事故原因は推測することしかできません。
ちなみに、消費生活用製品安全法で2007年5月〜2010年4月までに報告された福祉用具の重大事故は134件で、うち3分の1はベッド周りでの事故、次いで電動車いすと続きます。事故の特徴は、内容別にみると、転倒が最も多く、次いで転落、誤嚥となります。事故が起きる場所としては、自宅など屋内が多いようです。
認知症高齢者の福祉用具利用による事故・ヒヤリハットの対応
今後、2025年には、認知症高齢者数は323万人と推計されています。その中で75歳以上の後期高齢者が占める割合は10%を超えており、介護保険での在宅サービスの中で最も利用されているサービスの1つである福祉用具貸与サービスの利用においても、認知症高齢者への対応がさらに重要となることは必至です。前述のアンケート調査でもわかるように、認知症の方が福祉用具を利用すると、使い方がわからなかったり、忘れてしまったりして、それだけ事故のリスクが高くなります。したがって、これからの福祉用具の安全は、認知症の方たちへの安全、また、BPSD(認知症の行動・心理症状)など周辺症状も含む認知症そのものへの理解なしには語れません。
2008年に全国福祉用具専門相談員協会の協力を得て、全国の福祉用具専門相談員の方704人に対し実施したアンケート調査では、「担当する利用者の中に認知症の方はいるか」という質問に、75%の方が「いる」と答えています。
認知症の方の事故・ヒヤリハットの内容も、高齢者全体での福祉用具事故と同様、転倒・転落が最も多い結果となりましたが、認知症高齢者の事故で特徴的だったのは、同じ転倒・転落でも特に判断力・認識力の低下によるものが多いということでした。
しかし、そうした事故への福祉用具専門相談員の対応は、「家族へ見守り・注意を促す」や「福祉用具の機種変更」といったくらいで、あまり積極的な改善へ向けた対応はみられませんでした。これは、多くの福祉用具専門相談員が、認知症についての知識をあまり持ち合わせていないということに起因しています。認知症の専門知識がなければ、認知症高齢者の福祉用具による事故・ヒヤリハットにおいても、適切な対応はできないでしょう。
先日開かれた「福祉用具における保険給付の在り方に関する検討会」(以下、「在り方検討会」)では、そうした福祉用具専門相談員の質の向上についての議論があり、福祉用具専門相談員も認知症理解についての研修が必須であるとの見解が示されました。
「福祉用具個別援助計画書」の重要性
介護保険制度による福祉用具利用に際しては、ケアプランに福祉用具の必要性とその理由が書かれるわけですが、そこには、どのような目的や根拠で福祉用具の機種を選定したかまでは明記されません。そこで、前述の「在り方検討会」では、福祉用具個別援助計画書の重要性が議論され、指定基準にもその作成を義務づけるという方向で進んでいます。
また、福祉用具による事故情報も、自治体によっては、報告の義務も報告のための書式も統一されていないのが実態です。そのため、福祉用具のメーカー・貸与事業者・専門相談員と、訪問介護員や介護施設の職員、ケアマネジャー等との間で、情報がうまく伝わっていないという危惧もあります。そうした情報の分断をつなげるためにも、福祉用具個別援助計画書は重要な役割を果たします。
現在、すでに福祉用具個別援助計画書を作成している福祉用具専門相談員の約70%の方は、「作成したことで、これまで以上に利用目的・選定理由をしっかりと考えるようになった」と認識しています。やはり、特定の書類を設けることで、詳細な選定理由などを真剣に考えるようになるようです。それ以外にも「利用者の身体状況をより把握するようになった」、「ケアマネジャーとのやりとりがスムーズになった」という意見も挙がっています。
つまり、これからは、福祉用具の利用においても、PDCAサイクル―Plan(計画)→ Do(実行)→ Check(評価)→ Act(改善)の 4 段階の繰り返し―を回していくことが大切なのではないでしょうか。福祉用具専門相談員も「福祉用具の安全性に対し、福祉用具だけで解決しようと思わない」広い視野が必要です。特に認知症の方への対応には、多職種協働というメリットを生かすことが重要です。
FJCの皆様には、住環境と福祉用具をトータルに複合的な視点で、なおかつ高度な専門性をもって捉えることができるという立場から、個別援助計画作成のための研修をしていただけたらと願います。
地域包括ケアシステムの基本にあるのは、「住まい」です。今後、FJCの重要性はますます高まることと思います。ご活躍を期待しております。
「介護保険の中での福祉住環境整備の実践」
- 株式会社バリオン介護環境研究所所長/医学博士・工学博士(建築学)・理学療法士
金沢 善智 氏
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[金沢善智(かなざわ・よしのり)氏プロフィール] ●理学療法士として働いたのち、東京理科大学・同大学院にて建築学を修める。弘前大学医学部助教授、目白大学保健医療学部教授を経て現職に至る。著書に「利用者から学ぶ福祉住環境整備」(三輪書店)など多数。福祉住環境コーディネーター協会理事、全国福祉用具専門相談員協会理事、複数の福祉用具メーカーおよび貸与事業者のアドバイザーでもある。
お問い合わせは(株)バリオンホームページへ→ http://www.baryon-inc.net/
プロの仕事は、「ニーズ」を明確にすることから
われわれが仕事をする際、まずは、ご利用者の「ニーズ」は何かを明確にしなければなりません。ニーズとは、「それを解決しないと、生活を継続できない理由および原因」です。
ニーズというものは、主に3つの因子(原因)から成り立っています。1つは「その人にある原因」です。ひざが曲げられないという身体障害や、前向き・悲観的という性格、また、その人の人生に対する姿勢や生き方といった、その人本人に起因するもののことです。
2つめは「周りの人にある原因」です。これは、介護をしてくれる家族がいる、介護者と仲がよい・悪い、独居である、家族同然の友人がいる・いない、といったこと。また、居住する自治体によって受けられる給付の差等、制度に関することもここに含まれます。
3つめは「住環境にある原因」です。敷地の面積、家の広い・狭い、あるいは室内の段差がある・ない、壁や柱が多い・少ないですとか、さまざまな状況がここにもあります。
介護保険を利用する高齢者というのは、たいてい、それら3つの原因が複雑に絡み合っており、その3つが重なった中心部分が、通常、その人のニーズなのです。そして、その絡まったさまざまな原因を解きほぐし、必要な複数のサービスをコーディネートするケアマネジャーが必要とされるというわけです。FJCの皆様は、その中の「住環境」に特化してさまざまな原因を解決する役目、つまりケアマネジャーをさらに専門化した感じになります。
たとえば、次のような利用者がいたとします。
<ある高齢者Aさんの状況>
(1) 団地の2階に住んでいます → 住環境にある原因
(2) 車いすになってしまいました → その人にある原因
(3) 一人暮らしです → 周りの人にある原因
(4) 団地にエレベーターはありません → 住環境にある原因
(5) 家族や親せきは近くにいません → 周りの人にある原因
(6) 友だちは近所にたくさんいます → 周りの人にある原因
(7) この土地で暮らしたい → 要望および意志
一般的に、ケアマネジャーが作成するケアプランの第二表「居宅サービス計画書」のニーズ記入欄には、上記のAさんの状況を例にすると、(7)の「この土地で暮らしたい」くらいしか書かれていない場合が多いものです。しかし、「この土地で暮らしたい」というのは、ご利用者さんのニーズのすべてではなく、その一部である要望であり、意志です。
私が言っているニーズとは、その後ろ側にあるものです。「この土地に暮らしたいのだけれど、(1)〜(5)の状況が原因で暮らしていけないのだ」というのがニーズの全体です。FJCや福祉用具専門相談員は、専門的な視点からそれを見つけ出せなければいけません。そして、それらを具体的に明記するために「福祉用具個別援助計画書」の作成が必要となるわけですが、私だったら、Aさんの福祉用具個別援助計画書のニーズ欄には、こう書きます。「ご本人はこのまま自宅で独居生活を望んでいるが、住居がエレベーターのない団地の2階であるうえに、移動状況が車いすであるため、買い物や通院時の外出ができない」
これがしっかりと書かれていないと、専門家による検討ができません。しかし、このようにニーズが明確に記されていると、「同じ団地内の1階に空き部屋はないだろうか」という発想も生まれるわけです。この場合、たとえばUR都市機構などの賃貸住宅なのであれば、その担当者に問い合わせてみるのも一案です。もちろん、地域によって条件は違うでしょうが、さまざまなプロの方と協働しながら、自分は自分の専門性を生かした仕事をする。それが重要です。
そういう意味でも「プロの仕事の原点はニーズにある」ということが言えるわけです。ご利用者の要望の裏側にある真のニーズを読み取ることができるから、よいサービスが提供できます。トイレに手すりが10本あったっていい。ただ、その1本1本全てに、動作安定・転倒防止といった何らかの理由が必要だということです。その向こうに「トイレに1人で行きたい」という要望があるわけで、ニーズという原点なくして、利用者さんの生活を支えることはできません。
福祉住環境整備で、在宅生活を“あきらめない”
われわれの住んでいる家には、狭い、段差が多い、ドアが開けにくいなど、大なり小なり何らかの欠点というか不具合があるものです。健康なとき、それらの欠点はさして問題ではありません。たとえば狭いユニットバスでも、慣れれば使い勝手のコツをつかみ、そのうち逆にその狭さが快適になったりもします。人には環境適応力があり、それは健康な人ほど高く、身体機能が住宅の欠点をカバーできてしまいます。しかし、一度、何らかの障害により身体機能が低下してしまうと、住宅の欠点に低下して小さくなった身体機能が飲み込まれてしまい、もうその家では暮らせないとなってしまいます。ところが、そこにプロの手が入り、住環境を整備したらどうなるでしょう? 身体機能は小さいままでも、住宅の欠点が小さくなったことで、再びまた同じ家に暮らせるようになるのです(図)。
福祉用具や住宅改修によって、「できない」を「できる」にする。それこそが、われわれの仕事の醍醐味です。また、私たち自身も、たとえ障害をもつことになっても、できる限り“普通の生活”をあきらめないことが大事です。普通の生活というのは、1つは「継続する生活」です。それは、頑張れば1回だけ「できる」のではなく、常に継続してできること。そして、もう1つは「より生きがいのある人生」です。「今日は頑張ったから、ビールを飲むぞ」なんていうささやかな楽しみだって、普通の生活には必要なことです。そういう演出を、なんとか住環境整備という側面でお手伝いしてあげたい。私はいつもそう思っています。
専門家として資格は、取得したら以後、一生その分野の勉強をし続けるという証です。特に認知症に対する知識があるとないでは、住環境整備において、仕事に大きな違いが出るものです。幸い、今はインターネットで資料となる情報が瞬時に山ほど得られますので、ぜひ、FJCの皆様も、高齢者に多い疾患に関する医学知識なども積極的に学んでいっていただきたいと思います。
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