
総会の様子
平成22年度FJC協会総会にて、兵庫県立大学の小山秀夫氏、朝日建設株式会社の林和夫氏、国際プロダクティブエージング研究会の白石正明氏からご講演いただきました。
記念講演会
「介護保険改定の動向」
- 兵庫県立大学大学院 経営研究科医療マネジメント専攻 教授
小山 秀夫(こやま・ひでお)氏
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プロフィール
●上智大学大学院修士課程・博士後期課程(社会学・社会福祉学専攻)を経て、1980年、厚生省病院管理研究所医療管理部研究員。その後、国立医療・病院管理研究所マクロ経済研究室長、同医療経済研究部長を経て、2002年、国立保健医療科学院経営科学部長、2006年、静岡県立大学経営情報学部教授を歴任。博士(医療福祉学)。2010年4月1日より現職。
介護も医療看護も変革期
いま、日本は財政問題に直面していますが、それでも保健医療介護経営は拡大傾向にあります。医者不足、医療崩壊といわれますが、患者が減るわけではなくニーズは堅調です。
平成20年6月19日の首相府「社会保障国民会議」の中間報告書では、日本の医師・看護師数は1病床当たりでも病院全体でも国際標準からみると少ないとしています。たとえばアメリカと比べると日本の医療スタッフは4分の1程度です。また、162万床あるベッドのうち急性期に使われるのは42万床で、急性期のベッドの4分の1は空いている状態です。これは、医療技術の進歩などにより在院日数が短くなっているからです。また、救急医療においては、たとえば東京都はパリの12倍の救急車を用意しているにもかかわらず、到着までに13分かかり、これでは心筋梗塞で倒れても助かりません。
こういったさまざまな問題は、医療サービスの提供のされ方がいまの疾病構造や医療介護ニーズに合っていないことに根本的な原因があるとして、報告書では、医療の構造的問題への取り組みが欠かせないと指摘しています。そして、過剰な病床を削減して病院機能の効率化・高度化を図り、急性期や高度な専門医療を提供する中核的病院に人員などの資源を集約化する方向性が示されています。人が少ないのだから限られた資源を効率的に使いましょうということです。
一方、慢性疾患を抱えていたり認知症だったり、介護が必要だったりする高齢者については、地域において医療・介護・福祉の連携を図り、在宅支援機能をもつ主治医と介護支援専門員の連携を軸にした「地域包括ケアマネジメント」でカバーするとしています。これはいわば、急性期総合病院の一点豪華主義的な医療行政をあきらめ、代わりに医療だけでなくさまざまな支援を必要とする高齢者を地域において包み込むようにサービス提供しようということです。
また、民主党政権になってから、介護・医療分野が内需産業として成長分野とみられるようになってきました。高齢者はこれから増えていくわけですから、産業として見た場合、市場は45兆円規模(産業全体の15%)、雇用創出効果は280万人(全体の1割程度)とされています。在宅介護の経済波及効果は4.2倍といわれ、ダムや道路などへの公共投資よりも経済効果は高いといわれ始めました。
ケアの地域化へ向けて
私は30年前に厚生省病院管理研究所に勤務していましたが、リュックをしょって全国の老人病院を回りました。当時は老人病院という箱を作って老人を入れ、点滴して寝かせているという状態で、これが問題視されていました。しかし、その解決策としてリハビリテーションも在宅ケアもあまり注目されていませんでした。
私はイギリスでビジティングナースと話をしたことがきっかけで、日本にも訪問看護制度が必要だと強く感じるようになり、加えてイギリスの精神科のデイケアをモデルに、ケアの地域化を進めていこうと考えたのです。以来、デイケアや訪問看護、地域リハビリテーションの調査を進めてきました。
ケアの地域化を進めるには「ソーシャル・イノベーション」が必要です。30年前は「創る、つながる、変える」というふうに訳していました。その意味は、技術革新だけでなく、社会分野で新しい制度をつくって、地域住民や家族や支援を必要とする人をつなげて、変えていく、ということです。
その後、日本でも最初の老人デイケアが精神科で実施され、リハビリテーション病院ができ、老人保健施設のモデル事業や老人訪問看護ステーション、介護保険制度など、さまざまなサービスの制度化が進みました。これは高齢期のケアについて、いわば病院モデルから生活モデルへの転換が進んだということです。
そこで重要なのは、継続性、地域性、包括性です。継続性が確保されない実践はひとりよがりです。前後のつながりがあるわけですから、それを考えたケアをしなければなりません。地域を忘れた高齢者医療・介護もリハビリテーションも考えられません。また、医療従事者は自分だけが仕事をしていると考えがちですが、たとえば新聞配達では毎日、高齢者の安否確認をしています。そういった使えるものは何でも使うのが包括性です。
人間がほしいものは結局、「居場所」、「行き場所」、「座る場所」です。ただケアすればいいということでなく、継続性、地域性、包括性を意識することが大切です。少し難しく聞こえますが、ごく普通の生活をいっているのです。また、FJCの皆さんに考えていただきたいのは、リハビリで身体が動くようになっても心は止まったままということです。どうやって心を動かすか、難しい問題ですが、今後の取組を期待します。
介護・医療ニーズに合った対応を
厚生労働省は、今後めざすべき地域における医療・介護ネットワークのしくみを示していますが、注目すべきは、病院や老人保健施設、特別養護老人ホームを「後方支援」に位置付け、在宅療養診療所や介護サービス事業所を「在宅療養支援拠点」に位置付けている点です。
つまり、施設は主役ではないということ。主役は住人で、その支援を前線で行うのが、在宅医療・看護・介護の役割とされています。厚労省は施設入所よりも在宅を重視せざるを得ない現状を認めています。こういったなか、在宅ケアを提供する皆さんには、在宅ケアの拠点としてのイノベーションを期待しています。それぞれがばらばらにサービス提供するのではなく、継続性、包括性を意識しながら自分たちの立ち位置をもう一度、考えてみてください。
現在の介護・医療サービスは受給関係が崩れています。介護が主だったり慢性期なのに急性期病院に入院していたり、施設を出ることができるにもかかわらず、ちょっとしたことができなくて地域に帰れない、といったことが往々に見られます。
高齢者は今後も増えますが、病院の患者数は減ってベッドはどんどん空き、外来患者も減っていきます。この未曽有の高齢化のなか、高齢者の需要は医療サービスよりも、むしろ生活上の問題にあり、介護サービスの利用にどんどん移っていきます。病院はいままでの治療中心主義から健康づくりへとサービスを転換させると同時に、限られた資源を地域へ再配分する必要があります。一方で、介護保険の未来は明るいといえます。豊かなまちづくりや地域で暮らせるノウハウなど、これからも積極的に取り組んでいただきたいと思います。
「母から学んだ"介護スピリッツ"」
- 朝日建設株式会社社長
林 和夫(はやし・かずお)氏
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プロフィール
●富山・1947年生まれ、1970年東北大学卒業、1991年より現職。2002年に実母の介護の体験を踏まえて介護事業所・有限会社朝日ケアを設立。2003年には北欧視察の成果を積極的に投入したデイサービス・ショートステイ・グループホームからなる複合型施設「あさひホーム」を開設し、地域ケアに大きな役割を果たす。富山経済同友会常任幹事・富山みらいロータリークラブ会長等を務める。趣味は仕事。
介護職に必要な3Kは「共感力、協調性、向上心」
朝日建設は今年で創業70年になります。私の人生の指針は「働く」ことです。「はたらく」は「端・楽」です。つまり、周りの人をいかに楽にするか、自分のためではなく人にために、ということです。
私は母の介護をきっかけに、平成15年から介護事業を始めました。母は74歳で急に足腰が立たなくなり、認知症も進行していきました。はじめは自宅近くのデイサービスやショートステイを利用していたのですが、当社には土地も資金もあり、事務員もいるのだから、自分で母を介護するためのホームを開設しようと思い立ったわけです。そこで、デイサービス、ショートステイ、グループホームを備えた「あさひホーム」を建設しましたが、最初は全く採算がとれませんでした。なにしろ檜の床に檜のお風呂、24時間床暖房ですから。母はその後、容体が悪化して、長く利用することはありませんでしたが、母がいなければ、私は絶対に介護事業に携わることはなかったと思います。あさひホームはその後、徐々に評判がよくなり、平成18年にはもう1ヵ所、私の自宅近くに開設しました。
介護事業における運営理念は、「私たちの仕事はお年寄りに満足してもらうこと、満足を測る物差しは心からの笑顔」です。建設業の3Kは「きつい、汚い、危険」、病院の3Kは「臭い、暗い、汚い」です。けれども、介護職に必要な3Kは「共感力、協調性、向上心」だと私は考えています。たとえば、ショートステイの利用者を夜間起こしたくないといっておむつを替えない人がいましたが、自分が利用者の立場だったらどうでしょう。また、ホームの利用者を看取ったときに、非番の職員が駆けつけ、ほかの利用者の方に悟られないように気を配ったのですが、こんなときに協調性のないスタッフがいたら、どうでしょうか。それから、トランス(移乗)勉強会に参加しないとか、看護には興味がないというように向上心がなければ質の高いサービスはできません。
居心地のよい空間とサービスを目指して
たとえば機械浴は人間の尊厳を傷つけることになるのではないでしょうか。そういった発想から、ホームのお風呂はすべて檜にしました。また、芝生を植え、高断熱の建物にして夏冬にエアコンをなるべく使わないようにするなど、建設業で培ったノウハウを生かしながら、利用者の心地よさを追求しています。素敵な暖炉もしつらえました。
また、デイサービスは土日も休みなく運営しています。強制的なリハビリやレクリエーションも行いませんし、センサーなどの監視もありません。利用者の方の個性や自主性、自発性を重んじているからです。絵本作りや頭の体操、コンサートや日帰り温泉旅行など、たくさんのプログラムを用意して、好きなものを選んでいただけるようにしています。アニマルセラピーもあります。去年、その犬のハナが子犬を生んで、利用者やご家族に大人気です。
このほか、朝日建設の住宅改修事業においては、施設に伺った際にケアマネージャーさんからお客様の声を聞き、役立つグッズを提供しています。その際に大切なのは、利益目的に売るのではなく、その方の生活の場を実際に確認したうえで、生活がどう変わるかを考えることです。
経営状況は今年ようやく黒字に転じて新入社員も入り、今後が楽しみになってきました。
「FJCへも期待したい〜タウンモビリティによる町づくり」
- 国際プロダクティブエージング研究所代表
白石 正明(しらいし・まさあき)氏
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プロフィール
●東京・NPO法人ユニバーサル社会工学研究会理事長。1934年小樽市生まれ、小樽商科大学・青山学院大学卒業。1995年、英国のショップモビリティのわが国への紹介を契機に全国各地で普及活動を行う。高齢者・障がい者への電動車いす等の貸し出しシステムによる地域活性化を目指し、2005年より「タウンモビリティ全国研究会」を開催。著書に「タウンモビリティと賑わい町づくり」等。城西国際大学非常勤講師。
高齢化は人間の生活全般にかかわる問題
最初に『日本老残』(吉田寿三郎 著・1974年出版)という本をご紹介しましょう。この一節に「生物の特徴として、人は新陳代謝、成長、増殖を挙げる。そして、衰退も学者は忘れているが、衰退は生物の大きな特徴のひとつだ。だが、一般生物界では弱者はすぐにも淘汰され目につきにくいので、見落とされているわけだ。ところが、人の力が淘汰力を弱めた今日、人間では衰退期がはっきり目にとまるほど長くなった。これからはだれにも老後がある。それが弱っても死ねない形での長生き、老残であることを知ること」とあります。吉田先生は、高齢化は人間の生活全般にかかわる問題、すべてを含む問題であるとしていました。そこには、住宅から交通、町、生涯学習やボランティアなどすべてを含みます。本日のテーマであるモビリティ(移動)も高齢化にかかわる重要な問題です。生物が元気に生きていくためには、自分で移動できることが基本的な条件なのですから。
FJCは世界でただひとつ、福祉とハードの両方を含んでいます。欧米にはハードの資格はありますが、二つとも含んだものはありません。これから、包括性をもって生活全般を対象にした町づくりを考えるときに、FJCは大きな役割をもっていると思います。
町の賑わいとモビリティの問題
町は、平日でも雨でもいつでも賑わっていることが大切です。一時的に人が集まっても日常的な賑わいにつながらなければ意味がありません。人は、ほかの人や物、情報との出会いを求めて町に出ますが、人が町に出て「滞留」し、「回遊」することで、賑わいが生まれます。人が町に留まっていろいろなところを見て回ろうとするのは好奇心が刺激されるからですが、そこで実際に滞留・回遊するには、移動の手段、つまりモビリティが確保されている必要があります。
この滞留・回遊に対するモビリティの効果を実証したのが、ダイエーのタウンモビリティの実験です。新浦安の店舗に大きなスクーターを置いたところ、その利用者の店内の滞留時間は一般顧客の3.5倍、購入金額も数倍になりました。
また、たとえば、孫に頼まれたゲーム機を買おうとしたときに、置いてある店まで歩くことができずに購入に至らなかったという場合、これは商店街にとっては「機会損失」になります。もしも、店まで行くことができれば、購入していたわけですから。この「機会損失」はこれまで売る側の問題でした。品揃えがなかった、在庫切れだった、ということです。ところが高齢化により、「機会損失」が消費者側の問題で起こってくるようになったのです。つまり、自分で行けない、持てないために、買い物ができなくなっているのです。
写真では、杖をついた高齢者が5人で歩いています。こういった光景がいまの日本ではよく見られるようになりました。売る側からではなく、買う側からの発想に転換することが、商店街が生き残っていくうえで大切になってきました。
イギリスでは、ショッピングセンターのパーキングの入口近くで電動スクーターを借り、車を降りてすぐに乗り換えることができます。加えて休憩用のサロン(キッチン付き)が用意されていて、トイレもスクーターで利用可能など、設備面で整備が進んでいます。こういったショップモビリティは500カ所を超え、1つの町に1カ所はあるという状況です。多くのショップモビリティは会員制となっており、主にNPOが運営していますが、専任コーディネーターがボランティアとともに運営のすべてを担当しています。
さらに、買い物に限らず、銀行の入口段差の解消や横断歩道のデザイン、入口ドアの自動化といった町のバリアフリー化への取り組みも、ショップモビリティのメンバーの提案で進められています。また、移動が困難な場合には、自宅から目的地まで切れ目なく支援することが大切ですが、スクーターの出前や大型バスでの定期巡回など、町へ出ていくためのさまざまな移動手段が用意されています。
日本においても、全国で現在28カ所のタウンモビリティがあります。たとえば、広島の国営備北丘陵公園や久留米六角堂プラザ、水戸の絵本文庫、山口のホットサロンなどが有名です。六角堂プラザのトイレは18uあり、乳母車でも入れます。これは日本一のトイレ施設ではないかと思います。また、水戸の絵本文庫には手作りのアートがにぎやかに飾ってあり、町へ出かける引力になっています。山口のホットサロンでは、FJCの相談会や保健師による健康・生活相談を実施しています。イベントではなくて、人間の心の問題を考えてあげることに町の賑わいの基本があるように思います。
しかし、課題もあります。スクーターの利用はまだまだですし、コーディネーターがいない、NPOの組織作りもこれからです。個人のモビリティの認識もまだ低いです。スクーターに乗ることへの恥じらい・偏見もありますし、市民の声を代表する組織がない、といったこともあります。
21世紀の新しい"ときめき"のまちづくり
これからのまちづくりに求められるのは、まずは「安全、安心、快適」です。よちよち歩きの幼児を連れていても心配がないこと。次に求められるのは「憩いの環境」です。人間は動けば疲れますから、休息するためのベンチがほしくなります。水やトイレも必要です。
コペンハーゲンでは34年かけて中心部の歩行者地域を6倍にしました。雨が降っても滑らない舗装デザインが施され、町は多くの人で賑わっています。
世界保健機構(WHO)も町づくりに乗り出してきました。ライフコース・アプローチといって人生の全体を考えたアプローチをとらなければ、健康長寿の人生を歩めないということに気づき、調査を実施して2000人の高齢者や家族、事業者の生の声を聞き取りました。これが『WHOアクティブ・エイジングの提唱』にまとめられています。また、世界最大の中高齢者団体AARP(American Association of Retired Persons)も『生涯暮らせるコミュニティへのガイド』をまとめました。さらに、海外におけるリフォームの方向は転倒予防に移っています。
モビリティが減ると生活圏が縮小し、閉じこもりがちになって社会との接触がなくなり、お金も使わない、町も賑わない、身体も頭も使わない、という悪循環に陥ります。FJCとしては、町と暮らしの環境をいかにやさしくするか、そこに新たな役割を見出すべきではないでしょうか。町の賑わいがあるからこそ、健康長寿が実現されるのです。
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