フリートーク - 「住まい方・暮らし方・支え方とFJCの役割」
1.メッセージ
佐賀大学准教授 松尾清美(まつお・きよみ) 氏
- 松尾清美 氏 プロフィール
- 1953年生まれ。宮崎大学工学部在学中に交通事故で胸髄を損傷し、車いす生活となるが、リハビリ訓練後復学し1978年に同大卒業。総合せき損センター医用工学研究室勤務を経て、2003年5月に佐賀医科大学助教授(大学院医学系研究科、附属地域医療科学教育研究センター)に。同年10月の国立大学再編で佐賀大学となる。1400件を越える障害者の住環境設計の実績と自立(律)支援機器開発で多数の特許を取得。
「歩けなくても大丈夫、車いすでも大丈夫」

松尾清美 氏
私は大学でモーションキャプチャーなどを使った移乗移動動作を解析し、機器開発と住環境整備の方法を研究しており、さまざまな学術学会に参加すると共に、障害者の社会参加と生活行動支援を促進する普及活動も行っています。私自身、今は全く歩けませんが、車いすで会場まで一人で来ました。たとえ歩けなくなっても、私のような具体的な例を知っていれば、考え方を変えていくことができます。
障害をもっていても、住環境を整えれば生活の基本を獲得することができます。そのサポートをするのがFJCの仕事です。そして、高齢になればだれもが身体を動かしにくくなりますから、自分のこととしてとらえることが大切です。福祉用具と住環境を整えれば人の手を借りることなく自分でできることが増え、「自立」となります。それでもできないところはヘルパーや家族などのサポートを自分の計画で受ける、そうすることで、自分で生活をコントロールすることができます。いわば「自律」生活です。すると、社会へ出ていき生活を楽しみたくなります。
FJCの皆さんには福祉用具やそれに適した住環境をよく知っていただきたい。例えば、車いすの選び方ひとつで寝たきりの高齢者を起こすことができます。バスリフトひとつで入浴が自立します。FJCは障害者・高齢者の生活を変えることができるのです。
目白大学保健医療学部教授 金沢善智(かなざわ・よしのり) 氏
- 金沢善智 氏 プロフィール
- 理学療法士免許取得後、東京理科大学にて建築学を修め、理学療法士の知識・経験をもとに、要介護者の福祉住環境の整備に取り組み、弘前大学大学院を経て一昨年より現職に。「福祉住環境整備は常にご利用者が第一」をモットーに、実践と経験の積み重ねに励む行動派。
「連携こそがFJCの基になる大切な役割です」

金沢善智 氏
私は理学療法士ですが、病院で一生懸命リハビリテーションを実施したにも関わらず、退院後すぐに寝たきりになってしまう場合があり、その原因が段差や滑る床などの住環境にあると知って建築についても学び、福祉住環境の仕事に携わるようになりました。
病院では、退院の時期が来ても同居家族が障壁となって自宅へ戻れない人たちが多くいますが、上野千鶴子さんの著書にあるように、「適応能力のある家族が近所に引っ越して、本人は一人暮らしをして介護をプロに任せればよい」のです。ただし、そこで重要なのが一人暮らしを支える住環境とマンパワーです。介護の世界ではマンパワーが重視されますが、住環境がしっかりしているからこそ、マンパワーもフルに発揮できるのです。
そして、住環境整備の目的は生活を支援すること、つまり人生支援にあります。そのためには一つの専門領域だけでなく、幅広い知識を持つコーディネーターがいろいろな職種と連携しなくてはなりません。利用者の幸せのためには、FJCが連携を先導することが大切です。理学療法士は人の動きや障害特性がわかりますから、その視点で住宅改修を実施できるのが良い点ですね。現場ではご利用者の方から多くのことを学ぶことができますから、それを一つひとつ受け止めて形にしていくこと、それが福祉住環境整備です。
(財)たかのす福祉公社理事長 松橋雅子(まつはし・まさこ) 氏
- 松橋雅子 氏 プロフィール
- 一級建築士事務所Ms設計室主宰。秋田県・鷹巣町生まれ、1992年設計事務所開設。鷹巣町「福祉のまちづくり」メンバーとして活動。1998年ワーキンググループ「手すり取り付け隊」として出張活動を展開。2001年「住宅リフォームアドバイザーチーム」として福祉公社に窓口開設。昨年、任期満了に伴い老健施設「ケアタウンたかのす」を離れ、地域での在宅サービスを核とした事業を展開中。
「FJCを仕事に生かす、きっかけは?」

松橋雅子 氏
私は建築士ですが、「福祉のまちづくり」の活動をしています。そのきっかけは地域のワーキンググループに自ら飛び込んだことです。そこで高齢者の声に耳を傾けることの大切さを学び、多くの高齢者は「自分の家で、家族のそばで暮らし続けたい」と願っていることがわかりました。さらに、建築士というだけなく、このような高齢者の願いをかなえるために私にできることが見えてきて、現在は医療・食事・住環境・介護に加えて地域(調査・研究)・就労(研修・講座)と幅広い観点から住民の暮らしを支援しています。
この活動には元気な住民だけでなく障害者や高齢者も自ら参加して、自分たちのまちづくりを真剣に考え、支え合っています。福祉は生活そのものです。FJCは住民の声に耳を傾けて、住宅改修や施設建設に限らず、幅広く住民の暮らしを支える地域づくりをコーディネートしていく役割も担っています。きっかけは小さな身近なことでも、FJCとして大事な仕事を積み重ねていってください。
高齢生活研究所所長・むつき庵代表 浜田きよ子(はまだ・きよこ)氏
- 浜田きよ子 氏 プロフィール
- 母親の介護をきっかけに高齢者が使いやすい道具について学ぶ。1995年高齢生活研究所設立、2003年排泄用具の情報館「むつき庵」開設、全国で啓蒙活動を展開中。2005年度「京都府あけぼの賞」、2007年「日本認知症ケア学会読売認知症ケア賞奨励賞」受賞。主な著書は『高齢者が使いやすい日用品』(晶文社)、『高齢者の暮らしを支える道具と工夫Q&A』(ミネルヴァ書房)、『シニアに便利な生活グッズ』(晶文社)、『介護をこえて』(NHKブックス)他多数。
「FJCの役割とは?」

浜田きよ子 氏 (写真左)
元気なうちは自分が生きる道が見えても、車いすや寝たきりの生活になると生きる形が見えなくなってしまいます。そんななか、福祉用具や住環境でその人らしい暮らしや家族を支援できる、そして、それが家の中だけでなく地域全体で支え合うこと、人と人が支え合って願いをかなえることができることが、みなさんのメッセージを通じてよくわかりました。
FJCは資格だけでなく、地域にしっかり腰をおろしてその方々をよく見ることで、どんな役割を果たせるか、見えてくるのではないでしょうか。人は身体がどんなに不自由になっても寝たきりでも、世界とつながっていることが大事です。人が老いて障害をもって、いつか亡くなることのなかで、FJCの大切な役割を改めて感じました。
2.フリートーク
- 浜田:
- それでは、これからフリートークに移りましょう。講演でまだお話し足りない部分はあるでしょうか。
- 備酒:
- 人間は動きたいから動くのです。歩ける能力があっても「寝たふり」の方もいます。ある寝たきりの男性はそれまで但馬牛を育てていて、牛小屋へ連れて行くお話をしたら、いきなり立ち上がりました。以後、訪問リハは毎回牛小屋で、ADLはほぼ自立まで回復しました。ただし、これは心情論ではなくプロとして客観的に分析して普遍的な技術としていかなければなりません。技術とは人に説明できて、再現性があるものです。こうしたことをしっかり自覚して、一つひとつ技術を身に付けていくことが大切です。
- 金沢:
- さきほど家族が退院の障壁になってしまうというお話をしましたが、その原因は介護に対する過剰反応のように思います。福祉用具や住環境整備、そしてプロにきちんと任せることによって介護の負担を軽減できることがわかれば、その過剰反応も軽減できるのではないでしょうか。また、入院中は退院が目標なのですが、退院すると目標を見失いがちです。それをいっしょに見つけること、人生支援もFJCの仕事だと思います。
- 浜田:
- 本人と家族の間にFJCが入ることは有用ではないかと思いますし、福祉用具の威力は使ったことのない人にはなかなかわかりませんから、これを伝えていくこともFJCの役割ではないでしょうか。
- 松尾:
- まずどう介護しようか考えるのではなく、どう自立(律)するかという方向で考えていくFJCであるべきです。トイレ、入浴など自分でできることはみんな自分でやりたいはずです。認知症などがあり自分で判断できない場合に介護を考える、ということです。そのときに、FJCはさまざまな職種をコーディネートできるというところがいちばんいい点ですね。
- 松橋:
- 「花の命は結構長い」。鷹巣町の女性の高齢化率は50%です。山あいの小さな町でも支え合いのまちづくりでおばあちゃんたちがいきいきと暮らしています。なぜ?
自分の部屋から一歩出たら家族のところへ行きたくなり、地域に出たくなり、遊びに行きたくなります。それを支えるのがFJCで、これは建築士でなくてはできないことではありません。生活者の視点でしっかり生活を見ることのできる人が相手の生活をよく理解し、制度を理解し、さまざまな専門家をコーディネートすることが大切で、それがFJCの役割ではないかと思います。
- 浜田:
- 大変、参考になるいろいろなご意見をお伺いすることができました。本日はどうもありがとうございました。
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